

自宅で撮影したペットの動画で診断する
症状の改善具合を客観的なデータで知りたい
「最近ペットもすごく高齢化が話題になっていて、歳をとってくると、いわゆる足腰が弱るという状態になって、歩き方がギクシャクしたりとか、歩きにくくなったり、もしくは痛みがでてきたりします」と獣医学科の岩田恵理教授が表情を曇らせます。続けて、「それを我々獣医師は改善して、まさにQOLを高めようっていうような努力をするわけですけど、ただ歩き方が良くなった、改善したっていうところを見て、『良くなったね』というのは分かるんですが、客観的に数字として良くなった、悪くなった、そのままだっていうような、主観的じゃない情報で判断することができていないんです」とペット診療の現状を説明します。
「飼い主さんにペットの動画を送ってもらって、その動画だけで動きが解析できれば、飼い主さんにもペットにも負担にならない」。動物たちの様子を見た目で定量的に診断する方法――。この相談に応じたのが、情報理工学部の李天鎬教授です。専門は人工知能や機械学習を含むソフトコンピューティングで、スパコンを活用した高性能ビッグデータ分析を行い、より実用的な社会ソリューション創出をめざした研究を進めています。
動画で特徴点を自動追跡するツールを活用・時系列データ解析
李教授はまず、動画内に写る物体の特徴点を自動で追跡するツールの活用を提案しました。例えば、犬の手足や肩、鼻先、尻尾など骨の特徴点(骨格点)から歩く速度、足の高さ、角度、歩幅などの特徴量を算出し、積み重ねた時系列データをもとに歩き方を捕えます。「これで、異常検知や行動分類、予測などの多変量解析を行えるではないか、ペットの様子を数値化できるのではないかとみています」と李教授。現在は、動画に写った犬の骨格点の抽出と、その軌跡を3次元空間へ投影する作業に取り組んでいます。
飼い主がスマホで撮影したリハビリ中のペットの動画を送り、獣医師はAIモデルが弾き出した回復度合いをもとに的確にアドバイスすることになります。「飼い主さんのモチベーションの維持のためにも、気軽に評価できる、こんなデバイスがあると、ペットのQOL向上にはすごく役に立つんじゃないかと思います」と岩田教授は期待します。

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「生きたデータで社会に役立つアプリケーション開発」学生たちにも刺激
李教授は、この他にも同じ手法を利用して、例えば足を傷めたマウスの重症度診断やリハビリ後の回復度合いを数値化するプロジェクトなどにも携わっています。いろいろな動物に汎用的に利用可能なモデルの開発や、飼い主それぞれのスマホでも円滑に実行可能なモデルの最適化に関する研究にも取り組んでいます。「これまで理論を勉強して、研究室内で実験・検証して完結しがちでしたが、実際に生きたデータに触れることができ、社会に役立つアプリケーション開発にもつなげられるなど、実践経験を積むことができます。これは研究室の学生たちにも大いに刺激になります」と、李教授は「獣工連携」の意義を強調し、「他大学との共同研究となると、データの取り扱いやミーティングも大変ですが、同じ大学なのでとてもやりやすい。獣医学部と情報理工学部などが密接に連携できる岡山理科大学ならではの取り組みです」と話しています。



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