いきものQOL #5

いきものQOL #5


 

自宅で撮影したペットの動画で診断する

症状の改善具合を客観的なデータで知りたい
 「最近ペットもすごく高齢化が話題になっていて、歳をとってくると、いわゆる足腰が弱るという状態になって、歩き方がギクシャクしたりとか、歩きにくくなったり、もしくは痛みがでてきたりします」と獣医学科の岩田恵理教授が表情を曇らせます。
続けて、「それを我々獣医師は改善して、まさにQOLを高めようっていうような努力をするわけですけど、ただ歩き方が良くなった、改善したっていうところを見て、『良くなったね』というのは分かるんですが、客観的に数字として良くなった、悪くなった、そのままだっていうような、主観的じゃない情報で判断することができていないんです」とペット診療の現状を説明します。
「飼い主さんにペットの動画を送ってもらって、その動画だけで動きが解析できれば、飼い主さんにもペットにも負担にならない」。動物たちの様子を見た目で定量的に診断する方法――。この相談に応じたのが、情報理工学部の李天鎬教授です。専門は人工知能や機械学習を含むソフトコンピューティングで、スパコンを活用した高性能ビッグデータ分析を行い、より実用的な社会ソリューション創出をめざした研究を進めています。

 
動画で特徴点を自動追跡するツールを活用・時系列データ解析
 李教授はまず、動画内に写る物体の特徴点を自動で追跡するツールの活用を提案しました。例えば、犬の手足や肩、鼻先、尻尾など骨の特徴点(骨格点)から歩く速度、足の高さ、角度、歩幅などの特徴量を算出し、積み重ねた時系列データをもとに歩き方を捕えます。「これで、異常検知や行動分類、予測などの多変量解析を行えるではないか、ペットの様子を数値化できるのではないかとみています」と李教授。
 現在は、動画に写った犬の骨格点の抽出と、その軌跡を3次元空間へ投影する作業に取り組んでいます。
 飼い主がスマホで撮影したリハビリ中のペットの動画を送り、獣医師はAIモデルが弾き出した回復度合いをもとに的確にアドバイスすることになります。「飼い主さんのモチベーションの維持のためにも、気軽に評価できる、こんなデバイスがあると、ペットのQOL向上にはすごく役に立つんじゃないかと思います」と岩田教授は期待します。
 
学生と一緒に動画解析を行う李教授(右端)
特徴点を自動追跡するツールの仕組みを岩田教授(左)に説明する李教授(右)①
特徴点を自動追跡するツールの仕組みを岩田教授(左)に説明する李教授(右)②
李教授(右)から動画の自動追跡ツールの説明を受ける岩田教授(左)

「生きたデータで社会に役立つアプリケーション開発」学生たちにも刺激
 李教授は、この他にも同じ手法を利用して、例えば足を傷めたマウスの重症度診断やリハビリ後の回復度合いを数値化するプロジェクトなどにも携わっています。いろいろな動物に汎用的に利用可能なモデルの開発や、飼い主それぞれのスマホでも円滑に実行可能なモデルの最適化に関する研究にも取り組んでいます。
 「これまで理論を勉強して、研究室内で実験・検証して完結しがちでしたが、実際に生きたデータに触れることができ、社会に役立つアプリケーション開発にもつなげられるなど、実践経験を積むことができます。これは研究室の学生たちにも大いに刺激になります」と、李教授は「獣工連携」の意義を強調し、「他大学との共同研究となると、データの取り扱いやミーティングも大変ですが、同じ大学なのでとてもやりやすい。獣医学部と情報理工学部などが密接に連携できる岡山理科大学ならではの取り組みです」と話しています。

 

「獣工連携」のプロジェクトに関わっている李研究室の学生たち。(左から)竹内陽平さん、李教授、外薗耀基さん、竹原建汰さん、竹﨑大起さん、白石健人さん、呂俊岑さん
「動画だけで動きが解析できれば飼い主にもペットにも負担にならないはず」と話す岩田教授
 
共同研究の成果への期待を高める岩田教授

「獣工の連携」#6へ

QOL Quality of Life(クオリティー・オブ・ライフ)の略で、本来は人間らしく生き生きと暮らしているかどうかを示す「生活の質」「生命の質」を示します。もともとは医療分野の末期がん患者などの終末期ケアの現場で、快適さなどを取り戻そうとして広がった試みです。福祉や介護の現場にも広がり、最近ではペットについても注目されています。
 
いきものQOL シリーズ一覧
動物の視点で考える #1
点滴しながら散歩もできる装置を #2
 
動物とヒトに負担がかからない見守りを #3
 
フレイルを予防しペットと飼い主の健やかな共生を #4