いきものQOLシリーズ #2

いきものQOLシリーズ #2


 

点滴しながら散歩もできる装置を

ポータブルタイプの点滴装置の試作機(3号機)を
手にする宮部助教

 

 

通院治療が大変な動物たちも

 獣医保健看護学科の宮部真裕助教は真剣に悩んでいました。ヒトと違ってペットはおとなしい子ばかりではありません。動物たちは点滴するだけで一日中、入院ケージに入らないといけません。小動物で比較的多い腎不全などの疾患では脱水しやすくなるため、頻繁に点滴する必要があります。ヒトと同じような点滴スタンドを使っていますが、チューブが絡まって輸液が止まってしまうことも度々で、夜間、職員が不在の時にトラブルが発生し、朝、出勤してくるまで点滴が止まっていた、というケースもあります。
 「病院という環境をストレスに感じる動物もいますし、まして、頻繁に病院に通うのが難しい飼い主様もいます」と宮部助教。「高齢の飼い主様の場合は、タクシーを利用したり、ご家族に協力してもらったりすることもあります。場合によっては通院をあきらめるなんてこともゼロではないと思っています」と現状を話します。

 

赤木教授(左)と装置の調整をする宮部助教

 

独自開発の特製デバイスで光明

 何とか点滴をしながらでも、家族と過ごせる時間を確保することができないか。宮部助教は思い切って、今治キャンパスを訪れていた情報理工学科の赤木徹也教授に相談しました。「薬液が投与できるポータブルタイプの点滴の機械ができないものでしょうか」。「何とか考えてみましょう」と赤木教授。
 赤木教授は早速、CADを使って設計に着手。2週間かけて3種類の設計図を作成。これを基にまずは、透析に使うチューブポンプを利用して“1号機”を作りました。次に注射器タイプのシリンジポンプを使った“2号機”。“3号機”は、空気ポンプやバルブを使って、小さな風船に空気を送り込んだり、排出したりして圧力を加減し、薬液パックにかかる圧力を調整して流量を一定に保つデバイスを独自に開発しました。これを、持ち運びしやすいよう点滴薬液パックと風船をタブレットケース内に収納し、ケース外に設置の圧力センサーとマイコン、モバイルバッテリーなど駆動制御機器につないだ特製デバイスです。
 この3個を岡山から今治キャンパスに持ち込みました。宮部助教は一目見て1、2号機は即座に×。それぞれに➀まさつによる作動音が大き過ぎる②薬液がむき出しになるのでかじる恐れがある③衛生面で問題――などの障害がありました。宮部助教が目の色を変えたのは3号機です。これならペットに背負わせても大丈夫そうです。




 
 

情報理工学科の赤木教授(右)、横田雅司助教(左)と打ち合わせる宮部助教(中央)


試作3号機。風船を使って圧力を調整します

「飼い主と一緒の時間を少しでも長く」

 この3号機をブラッシュアップしていく作業が今も続いています。薬液パックを押す強さと流量の関係を検証するためデータを収集していますが、完成形に近づいたとしても、医療機器としての申請も必要です。「実験的に使えるようになるまであと2、3年はかかると思います」と宮部助教。ただ、光明は見えてきました。
 二人の間では対面で、メールで、こんなやり取りが続きます。

 赤木教授「点滴の流量を圧力で調整する件ですが、ワンちゃんの静脈圧の平均的な数値があれば教えてください。それと点滴の流量を制御するのであれば、簡易な流量計をつくれば、その数値をもとに加圧を制御する方法もあると思います。マイコンで流量を計測しながら投与も可能になりそうです」

 宮部助教「輸液チューブの先の高さや出口側の条件によって変動する可能性については検討の必要性を感じています。ただ出口側の影響は結果的にほとんど考慮する必要はなさそうなので、今後は高さについて検討する予定です。流量計については、コンパクトなものが可能であれば必要になるかもしれません。いろいろと試行錯誤していければと思います」

 ベストな装置の実現に向けて一歩ずつ前に進んでいます。

 「ペットは今や家族と同じ。そんな家族と一緒に過ごす時間が一番幸せな時間だと思います。その時間を少しでも長くしてあげられたらというのが私たちの願いです」と宮部助教。動物と飼い主のQOLの向上に向けて、獣工連携での挑戦が続きます。

 

(「獣工の連携」#3へ)

QOL Quality of Life(クオリティー・オブ・ライフ)の略で、本来は人間らしく生き生きと暮らしているかどうかを示す「生活の質」「生命の質」を示します。もともとは医療分野の末期がん患者などの終末期ケアの現場で、快適さなどを取り戻そうとして広がった試みです。福祉や介護の現場にも広がり、最近ではペットについても注目されています。