

災害時の同行避難
動物愛護と飼い主の心のケアを目的に
災害時に大きな問題となるのが、“家族の一員”のペットたちの避難です。「ペットと一緒だと避難所で周りに迷惑がかかる」「どうしても離れたくない」といった理由で、同行避難をあきらめて車中泊を余儀なくされ、体調を崩す被災者もいます。こうした災害時を想定して環境省は「人とペットの災害対策ガイドライン」を示し、同行避難について「動物愛護の観点のみならず、飼い主である被災者の心のケアの観点からも重要である」と位置付け、いくつもの事例を紹介しています。
岡山理科大学獣医学部は2018年に今治市、愛媛県獣医師会と「災害時における動物救護活動及び被災者への救助活動に関する連携協定」を締結し、被災動物の指定避難所とされています。以来、「災害時同行避難体制の確立」を準正課教育プログラムとして、学生たちがニューズレターを発行するなどして広報活動を続けています。
山火事で体育館に3世帯7人と11匹が避難
この今治キャンパスが初めて、同行避難の避難場所となったのが今年3月23日夕に発生した大規模な山林火災です。火元は南に10㌔ほど離れた地区でした。次々に燃え広がる中で、獣医学部の体育館を夜7時には避難所として開放。獣医保健看護学科の佐伯香織准教授によると、「最初の飼い主の方がネコと避難してきたのは夜10時ごろでした。その方が同行避難場所をSNSで発信してくれ、その後、飼い主は3世帯7人まで増えてネコが11匹になりました」。公民館やマイカーに避難していた人たちでした。ほとんどのネコは移動用の小さなキャリーケースでやって来ていたため、SNSで大きめのケージやフードなどの提供を呼び掛けると、次々に市民が持ち寄って来てくれたと言います。避難生活は4日間、続きました。

飼い主と同行避難してきたネコたち

避難スペースが確保できました
「市民への浸透が課題」
こうした中で、佐伯准教授がショックを受けたのは「同行避難場所を知らなかった」「知っていたら最初から来た」という反応が多かったことです。「情報の伝え方を考えないといけない。高齢の方にはメールじゃ届かないかもしれない。となると、行政とも一緒に対応を考えないといけない。我々としては、ここに同行避難の拠点がありますよ、ということをとにかく知らせていくしかないと思っています」と佐伯准教授。「各地区で実施している防災訓練では、必ず同行避難訓練も実施するようにして、浸透させていきたい」と意気込みます。
そこで真価を発揮するのが“獣工連携”によるデバイスです。動物のバイタルサイン(呼吸・心拍・体温)をリアルタイムでモニタリングし、災害時などに活用するプロジェクトです。「被災地では装着するタイプのデバイスは多分難しいため、非接触型で離れた場所からモニタリングできるようなデバイスがあれば有効です。既に開発が進んでいるマット式のバイタル計測システムも便利です。データを蓄積して科学的な数値を基に『大丈夫ですよ』と伝えてあげることで、飼い主の方もホッとするはずです」と佐伯准教授。
今回、佐伯准教授らが商品開発を手伝った、人とペットが共有できるペットフードを体育館で提供したところ、持ち込んだフードを食べなかったネコがしっかり食べたそうです。「人とペットが共有できる備蓄食の開発にもつなげられたら…」。佐伯准教授の目が輝きを増します。
“獣工連携”デバイスでペットと飼い主に安心を!
今回、同行避難してきたネコたちは当初、フードや水も口につけず、排せつもままならない状態。慣れない環境で仕方がないとはいえ、そんなペットの姿を見ている飼い主もストレスが増します。そこで真価を発揮するのが“獣工連携”によるデバイスです。動物のバイタルサイン(呼吸・心拍・体温)をリアルタイムでモニタリングし、災害時などに活用するプロジェクトです。「被災地では装着するタイプのデバイスは多分難しいため、非接触型で離れた場所からモニタリングできるようなデバイスがあれば有効です。既に開発が進んでいるマット式のバイタル計測システムも便利です。データを蓄積して科学的な数値を基に『大丈夫ですよ』と伝えてあげることで、飼い主の方もホッとするはずです」と佐伯准教授。
今回、佐伯准教授らが商品開発を手伝った、人とペットが共有できるペットフードを体育館で提供したところ、持ち込んだフードを食べなかったネコがしっかり食べたそうです。「人とペットが共有できる備蓄食の開発にもつなげられたら…」。佐伯准教授の目が輝きを増します。

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「岡山・今治両キャンパスの連携で新たな地平を切り拓く」
「いきものQOLプロジェクト」コーディネーターの江藤真澄・獣医学科教授は、「ヒトと動物がともに健やかに暮らす社会をめざし、獣医療と工学の融合による新たな技術開発と社会実装を進めています。動物に特化したバイタルモニタリングをはじめ、畜産や教育・獣医療の現場で役立つデバイスの開発・実証に取り組み、これらを用いて、災害時の同行避難支援を含むスマートアニマルヘルスケアの実現をめざしています」とプロジェクトの将来像を描きます。
2024年度からは農林水産省「知の集積と活用の場」研究開発プラットフォームにも参加し、産学官連携を推進。また、地域の企業と一緒に開発したペットフードや動物用タオルは、しまなみ海道・来島海峡サービスエリアでも販売されており、地域発の新しいチャレンジとして広がりを見せています。
「こうした取り組みを通じて、『獣医療工学』という新しい学びの分野をつくり、中国・四国地域から動物関連の産業を育てていきます」と江藤教授。これからも、岡山と愛媛・今治、ふたつのキャンパスが連携し、新たな地平を切り拓いていきます。
2024年度からは農林水産省「知の集積と活用の場」研究開発プラットフォームにも参加し、産学官連携を推進。また、地域の企業と一緒に開発したペットフードや動物用タオルは、しまなみ海道・来島海峡サービスエリアでも販売されており、地域発の新しいチャレンジとして広がりを見せています。
「こうした取り組みを通じて、『獣医療工学』という新しい学びの分野をつくり、中国・四国地域から動物関連の産業を育てていきます」と江藤教授。これからも、岡山と愛媛・今治、ふたつのキャンパスが連携し、新たな地平を切り拓いていきます。


(2024年9月)
QOL Quality of Life(クオリティー・オブ・ライフ)の略で、本来は人間らしく生き生きと暮らしているかどうかを示す「生活の質」「生命の質」を示します。もともとは医療分野の末期がん患者などの終末期ケアの現場で、快適さなどを取り戻そうとして広がった試みです。福祉や介護の現場にも広がり、最近ではペットについても注目されています。