次世代型のステント開発で、AMEDの公募事業に採択
工学部機械システム工学科 清水 一郎(しみず いちろう)教授(左)
医薬品・医療機器開発の国家プロジェクト
「AMED(エイメド)」は、医薬品・医療機器の開発に関する国家プロジェクトを担う機関です。正式には「国立研究開発法人・日本医療研究開発機構」(本部・東京)。医療分野の研究成果を迅速に実用化していくために2015年に発足しました。
その2018年度の公募事業に技術科学研究所の中谷達行教授と、工学部機械システム工学科の清水一郎教授の2人が参加するプロジェクト(申請者:株式会社日本医療機器技研)が採択されました。今年度はこのプロジェクトを含めて14事業が採択され、計約290億円が配分されることになっています。
「機械系研究者として、実際に人の役に立つ製品開発に携われることをうれしく思っています」と話すのは清水教授。
2人が参加しているプロジェクトは、一定期間経過すると生体内で分解する次世代型のマグネシウム合金によるステントの開発で、4年後の臨床実験を目指します。
血管修復後は体内で分解/患者の負担を大幅に軽減
次世代型のステントとは――。血管が血栓などで詰まった際、カテーテルでステントを患部に挿入、バルーンで膨らませて血管を拡げる治療が行われますが、従来のステント素材であるコバルトクロム合金などは、血管が拡張しても永久に分解されずに異物として残ります。このため、血栓予防などのために抗凝固剤を飲み続ける必要があり、出血した場合、止血しにくくなるという弊害もあります。
2人が参加する研究は、人体と親和性が高く体内で分解するマグネシウムに着目し、血管が元通りになる3カ月~6カ月だけ、血管を拡げる機能を持たせようというものです。マグネシウム合金だけでは数日で分解してしまうため、炭素と水素から成るダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)でコーティングを施し、分解速度を制御する技術を中谷教授が担当。マグネシウム合金は、従来のコバルトクロム合金などよりも強度や変形能が劣るため、マグネシウム合金製ステントの最適形状設計を清水教授が担当しています。
実際の製品は、マグネシウム合金のステントにDLC(防食ナノカーボン層)、防食ポリマー層、薬剤溶出ポリマー層などで表面処理する予定です。
ステントを挿入する際には柔軟性がないと血管が傷つきます。しかし、血管を拡げた形状を保持するためには強度や剛性が必要です。相反する機能の微妙なバランスをどう取って行くか。実用化に向けて研究が続きます。
提供:株式会社日本医療機器技研
「この技術を応用して新たな医療機器を」
中谷教授は「このステントで多くの人を救うことができると思います。技術科学研究所のミッションは研究成果を社会へ還元することで、この事業は正に最適な研究です」と力を込めます。さらに「この技術を応用して、従来にない直径2~3ミリの詰まらない人工血管を作りたい。これで、今まで治療できなかった患者さんに対して治療ができるようにしたいと考えています」と意欲を燃やしています。
一方、清水教授は「実際の医療機器開発プロジェクトへの参画は、モノづくりを目指す機械系研究者として大きなやりがいを感じます。これまで培ってきた知識を活かし、患者さんにとって、より負担の少ない形状設計を進めていきたいです」と話しています。
ステントの市場規模は日本だけで約450億円とされ、世界では1兆数千億円とも言われます。それだけ需要が高い医療機器と言えます。2人が関わる新しいステントが世に出る日が楽しみです。
中谷教授 略歴
1987年 | 東京理科大学理学部応用物理学科卒業 マツダ株式会社入社 |
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2004年 | トーヨーエイテック株式会社(転籍) |
2008年 | 長崎大学大学院生産科学研究科物質科学専攻博士後期課程修了=博士(工学) |
2014年 | 岡山理科大学技術科学研究所教授 |
清水教授 略歴
1989年 | 岡山大学工学部応用機械工学科卒業 |
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1994年 | 岡山大学大学院自然科学研究科生産開発科学専攻博士課程修了=博士(工学) |
2007年 | 岡山大学大学院自然科学研究科准教授 |
2014年 | 岡山理科大学工学部機械システム工学科教授 |