教育・研究編6

教育・研究編6

ヌートリア研究の第一人者

理学部動物学科 小林 秀司(こばやし・しゅうじ)教授

「こんな顔をしていますが、かなり賢いし集中力がある。知能が高い。なのに、“のんきな父さん”みたいなところもある。めちゃくちゃ面白いですよ」

 小林准教授が入れ込むヌートリア。もともとは南米に住むネズミの仲間で、頭から胴体まで約50~60センチ、体重約4~6キロ。上下各2本の大きな赤い前歯が特徴です。川の土手などに巣を作り、水草などを食べています。岡山県内でも各地に生息しているので、皆さんも目にしたことがあるかもしれません。稲や野菜も食べてしまうため、農家にとっては「害獣」として知られ、特定外来生物に指定されています。

「害獣」とはいえ、その魅力のとりこに

 ヌートリアに関わったのは2008年、リーマンショックに伴う緊急雇用創出事業として岡山県のヌートリア駆除対策を依頼されたのがきっかけ。それまでの専門は南米霊長類。「当時、岡山で哺乳類を扱っている研究者がほとんどいなかったので、白羽の矢が立ったのでしょう」と小林准教授。

 ヌートリアの生物学的な調査、防御対策などに取り組んでいるうち、その人間くさいキャラクターに魅了されていきます。「防御柵を作ると、どこかに突破できるところがないかと、柵の周囲をじっと見て回る。留め金が緩んでいると、『ここは少し動くぞ』とみて、集中的にしつこく攻撃する。サルだと2、3回やってみてだめだと、すぐにあきらめてしまうことが多いんですが」

 もう一つ。「捕獲用のオリがあると、まずは怪しがる。グルグルとオリの周囲を回って、『ニンジンあるよな、どうしようかな、大丈夫かな』という感じで回る。警戒しながらも結局入ってしまい、パタンと扉が閉まる。キツネとかタヌキならすぐに入るか、警戒して絶対に近寄らないですよ」。今では研究の柱となっています。

 現在、岡山キャンパス・D3号館の飼育室で、オスとメス各2匹の計4匹を飼育しており、毎日、学生たちがニンジンやキュウリ、レンコンなどを与えながら、生態について研究を進めています。

かつては国が飼育を奨励した時期も

 そもそもヌートリアが日本にやって来たのは1907年、上野動物園が雌雄のつがいを輸入したのが始まりと言います。その後、毛皮を取るために商社が輸入したり、飼育ブームがあったりしました。戦時中は、毛皮が防寒性に優れているとして飛行服にも使われました。国が食肉用に飼育を奨励した時期もあります。でもいつの間にか、それがなかったことになって、増えたのが捨てられ、どんどん野生化していきます。

国内に何匹が生息しているかは「分からない」と言いますが、前述した岡山県の雇用創出事業では2年間で5000匹を駆除したとされています。少々古いですが、2008年度のデータによれば、岡山県内の農業被害は約1700万円と推定されています。

既に自然の生態系の中にしっかり根付く?

「好きなのは基本的には水草で、ヨシだとかマコモが生えているのを、引っこ抜いて、根っこの部分を食べます。イモとかブロッコリーも好きです。寝床にするために稲を倒してしまう被害もあります。ただ、高さ70センチ以上の柵は越えられないので、田畑を柵で囲うのは効果的です」と説明します。

「被害がひどければオリなどを使って捕獲・駆除すればいいのですが、一時的な効果しかありません。半年もすれば新手がやってきます」。ヌートリアならぬイタチごっこ。「ヌートリアは岡山に住み着いて70年、もう岡山の自然の一員になっていて、生態系にしっかり組み込まれているのだと思います」と小林准教授。

 ヌートリアは繁殖力が強く、1回あたりの出産が平均6.5匹で、140日に1回ぐらい出産、生後半年ぐらいで出産が始まります。それが1匹も死なないと想定して試算すると、ひとつがいが、5年たたないうちに8億匹ぐらいに増えるので、「日本中の川がヌートリアで埋め尽くされていてもおかしくない。それがそうはなっていない。増えも減りもせず、バランスが取れているようです。自然の生態系の中で、どうなっているのか。これを解明していくのが最大の研究課題です」。ヌートリアとつきっきりの生活が当分続きそうです。

略歴

1992年 京都大学大学院理学研究科霊長類学専攻(博士後期課程)単位取得退学=博士(理学)
財団法人日本モンキーセンター(登録博物館)研究員
1998年 中京女子大学人文学部アジア学科講師
2006年 岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科准教授
2008年 岡山理科大学理学部動物学科准教授
2019年 岡山理科大学理学部動物学科教授