微生物の力で人の生活を豊かにしたい
ひとつまみの土の中でさえ1億以上もいるという微生物。カビ、酵母、バクテリア(細菌)など1~5ミクロン(ミクロンは1000分の1ミリ)ほどの小さな生物に、学生時代から魅せられているのが三井教授です。
お酒や味噌、しょう油、チーズ、ヨーグルト、パンなどの発酵食品は全て微生物の力を借りています。そして微生物はあらゆる所にいます。
「ピロリ菌のように胃酸の中に住んでいるのもいるし、海底火山の100度以上の環境で生きているのもいます。そんな微生物からは100度付近の高温でも働くような酵素が取れます。人が排出してしまった環境汚染物質を食べてくれる微生物もいます」。輝きを増していく表情に深い愛情が感じ取れます。
神経芽腫の検査キット開発
三井教授は、微生物に含まれる酵素に着目して2012年、小児がんのうち白血病に次いで多いとされる「神経芽腫」を簡単に検査できるキットを開発しました。この病気は副腎などにできる腫瘍で、副腎が肥大するとアドレナリンの分泌量が増大しますが、それが体内で分解されて、バニルマンデル酸(VMA)という化合物が尿に混じって大量に排出されます。そのVMAに反応する酵素を微生物から抽出し、反応の度合いで診断する方法を考案しました。このキットを使えば、96人分がわずか5分程度で診断可能で、1人30分程度かかっていた従来の方法と比べて格段に効率がアップしました。特許を取得し、実用化を目指しています。
「自然界から微生物を探し出してきては、中身を取り出して何かに使えないか、と常に考えています」。この研究スピリットが原動力です。
微生物を活用して農作物の収量増加も
現在のメーンテーマは、微生物を農業に活かすこと。「植物と共生している微生物がいて、その関係性をうまく利用してやると、作物を大きく育てることができます」
教授によると、葉っぱの上にはメタノールという物質が出ていて、それを微生物が食べて、植物の成長に欠かせないホルモンを供給しています。その関係性を研究している中で、注目したのが「メチロルブラム」という微生物。この微生物を育てていた培養液を植物に与えてみると、成長速度が1.5倍も上昇することが分かりました。
「成長速度は確実に高まります。ただ、薬は与え過ぎると成長を阻害してしまう。自然界での現象を模したようなバランスが大切です。今はまだデータを詳細に解析している段階ですが、うまくいけば農薬・肥料などの使用量を減らしながらも収量増加が見込めます」
この研究成果を応用すれば、荒地などの土壌環境が貧弱とされる場所では、なぜ植物が大きく育たないのか、という原因が植物と微生物の関係性から分かってくると言います。
研究のフィールドは地球
「微生物がいない環境というのは、地球上ではほぼないぐらいで、生き物は何らかの形で微生物に関係しながら地球上で生きています。その中に人もいるし、植物もいて、微生物といろいろな関係を保っています。そのメカニズムを知ることが私の研究テーマです」
最近では、腸内細菌がつくる機能性化合物が血糖値や中性脂肪を下げることを突き止めて、特許出願したばかりです。
微生物を軸に環境、食糧、生命と幅広いフィールドの研究に取り組んでいる三井教授。一つ一つの研究が、人の生活を豊かにしていくという実感に満ちています。
略歴
1998年 | 京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻・博士後期課程修了 岡山理科大学理学部生物化学科助手 |
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2005年 | 米国ワシントン大学(シアトル)客員講師 |
2008年 | 岡山理科大学理学部生物化学科准教授 |
2016年 | 岡山理科大学理学部生物化学科教授 |