頭や顔の骨再生の画期的手法を確立
「頭の骨が元通り再生すれば、普段通りの生活が送れるし、どんなスポーツでもできるようになります。実用化の一歩手前まで来ているんですよ」。外傷などで頭部が強いダメージを受けて、骨膜や硬膜まで損傷を受けた場合、治療して頭皮などは再生しても頭がい骨は再生しません。このため、セラミックやチタンで穴をふさぐことになりますが、異物ですから炎症が起きやすいうえ、へこんだりするのでスポーツなど激しい運動は難しくなってしまいます。
「何とか自分の骨で再生できないか」と研究を重ねて、たどり着いたのが「ハニカムTCP」という素材です。TCP(リン酸三カルシウム)は医療でよく使われる、生体親和性の高いバイオセラミックスです。
生体親和性の高い素材を求めて
辻極教授はまず、TCPの焼結温度と生体反応の関係に着目し、焼結温度を1100度、1150度、1200度、1250度、1300度、1500度などと替えてみました。すると、1200度で焼結したTCPで炎症反応が最も少なく、骨形成が順調に進むことが判明。さらに棒状のTCPに多数の穴を開けることで、骨形成がどのように進むか試してみました。さまざまな直径の穴を開けて、確認したところ300マイクロメートル(マイクロは1000分の1mm)で最も強く効果が現れたのです。
ハチの巣状の形が決め手
頭がい骨や頬骨を欠損させたラットに、ハチの巣状の穴を開けた「ハニカムTCP」と「BMP-2」(骨誘導タンパク質)を使ってみたところ、穴の内側を骨が覆って、骨が覆った空間に骨髄が誘導されるように再生されました。頬骨では半年たつとTCPは吸収され、以前と同じ形態の頬骨が復元されていました。
この研究成果は2016年に「頭蓋骨接合部材」として特許出願しました。
待望の実用化まであと一歩!
この技術をヒトにも適用できないのでしょうか?「形成外科、耳鼻科のお医者さんからは『ヒトで使えるのであれば、すぐにでも使いたい』と言われます。でも、ヒト用には、もっと大きなTCPに300マイクロメートルの穴をたくさん開けないといけない。それができる業者が今のところないので、探しています」
まだまだハードルはいくつもあるのでしょうが、一日も早く実用化にこぎつけてほしいものです。頭や顔の骨を欠損しても、自分の骨で元の形に戻るのであれば夢のような話ですから。
辻極教授はこのほかにも、関節軟骨や歯の再生研究などにも取り組んでいます。こちらも大いに期待できそうです。
TCPのみを埋入して1ヶ月後のラットのマイクロCT像
TCPとBMP-2の埋入6ヶ月後mTCPは吸収され、元の骨の形に近づいた。
略歴
1994年 | 岡山理科大学理学部卒業 岡山大学医学部神経情報学講座研究生 |
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1997年 | 岡山大学大学院歯学研究科博士課程(口腔病理学専攻) |
2010年 | 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科准教授(口腔病理学分野) |
2014年 | 岡山理科大学理学部臨床生命科学科教授 |