情報理工学科 赤木 徹也
前職で高専教員として長年ロボットコンテスト(以後、「ロボコン」と呼ぶ)を指導していて、ロボコンをしている学生の自律性やチャレンジ精神など彼らの社会人基礎力が育っていることに感心することが幾多もあった。
これらの学生は、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」などが自然と身についていて、人間関係も含めた幾多の問題を解決しながら競技に間に合わせるなど、人間力も含め驚くほど成長していた。
しかし残念ながら、私の経験上、この高専ロボコンを数年間・複数にわたって挑戦する学生は全体の数%未満で非常に少ない。
一方で、この学生の優秀さを知っている企業からは、「十人の高専生より一人のロボコン学生を紹介してほしい」など、その有能さを肌(仕事上)で感じているようであった。
また、残念なことに、ロボコンを自主的に始める学生は、概して「我が強く」、就業してもミスマッチを生じることも少なくない。企業との会合で「最も欲しい人材」について話になった際も「高専でロボコンを経験して、大学・大学院に進学してアク(我の強さ)が取れた学生が一番いい!」と葉酒の肴になったこともあった。
当時、高専でロボコン学生の指導に手を焼いて小生も、強く同意していたことを明確に覚えている。高専から転職して母校(岡山理科大学)に戻った小生は、このロボコンを教育に組込めないか?と模索するようになった。特に、技術者の社会人基礎力の醸成には、企業での就業と同じくPDCAサイクルを繰り返し経験する必要があり、大学教育として実施するには、グループワークでの創造的活動を継続して行う必要がある。また単に、これらの実習を経験するだけでは「主体性」や「実行力」の修得は難しく、受講者同士が競い合いながら主体的に行うことも必要である。
ロボコンはこれらの学習機会を多く含む活動で非常に効率がいいと感じたからだ。また、学生たちにとっても楽しみながら競い合うことはモチベーションの維持に打ってつけだった。この継続的な教育を始めるなら早ければ早いほどいい・・と思い、入学したばかりの1年生を対象にマイコンと振動モータを使った移動ロボットを製作させロボコンを行う講義を2006年(情報理工学科の前身学科で)から行った。
当時、この講義を実施するかのどうかの議論が、あと2週間で講義が始まる時期だったため、大きな反対を受けると「ドキドキ」していたが、意外にも反対はなく、さらに私以外にも複数の先生方が協力してくれるなど、国立学校から来た小生にとって「私立大学の柔軟性」と「(若人の育成に労を惜しまない)本学の理念」に衝撃的な感動を覚えたことを記憶している。

この当時のメンバーは今も情報理工学科の同僚として教育・研究に携わっている.その後、2年生を対象に複数のセンサとステッピングモータをマイコンで制御して迷路を自動で探索するロボットの製作と組込ソフトを作成するロボコンの講義を2008年から開始し、さらに以前(1995年)から行っていた、3年生を対象とした製作経費のプランニングを含めたロボットの計画・設計から加工・組立までを行い、綱引きと玉入れ競技など俊敏さと力強さなど相反する両仕様を満たすロボットを製作する総合的なロボコンを含め「ロボットコンテストを通じた体系的かつ継続的な実践的ものづくり教育」の今の体制が確立した。現在は30代や40代の若手教員が中心にとなり、さらにグレードアップした内容で継続されている。
このロボコンの教育効果は抜群で、このカリキュラムを受講して大学院に進学した学生の国際会議の発表率が実施前の6倍に上昇し、学生が筆頭著者として執筆したJournal数/在籍者数の比率も6倍に上昇するなど顕著な効果が得られている。さらに、この教育を受けた博士課程進学者の半数(50%)が特別研究員(月20万円の給料が国から支給)に採択されるなど、驚異的な効果も示している。
長年ロボコン教育に携わってきた小生が感じる一番の驚きは、この「養殖ロボコン」といえる計画されたロボコン教育で育った学生に、アク(我)の強い学生が極端に少ないことである.自主的に参加する「野生ロボコン」学生に比べ、交渉力は劣る反面、従順で素直な学生が多く、独断ではなくグループで対処する方向に早い段階で誘導する学生が非常に多い。
小生にとって想定外のことではあったが、「企業に送る際にこれほど有益な人材はいない」と胸をはっていえるほどである。特に大学院進学者のほとんどは、これらの能力がより身に付いており、小生と関係の深い会社(世界シェアNo.1のメーカーなど)では、複数の学生の獲得に毎年来てくれている。彼らもロボコン経験者のエンジニアとしての市場価値の高さをよく理解してくれているのだろう。
以上紹介したこのロボコンを通じた教育は、2025年の8月に工学教育協会から「15年以上続くロボットコンテストを通じた体系かつ実践的なものづくり教育による社会人基礎力の醸成」の題目で工学教育賞(業績部門)を受賞しました。
最後に、ロボコン未経験者であった小生に、高専でのロボコン教育の素晴らしさを教えてくれた故里吉昭宣先生(元津山高専教授)に感謝の意を伝えたい。


