学生編11

学生編11

58歳で大学院入学 ドクター目指す会社社長

大学院工学研究科システム科学専攻・博士課程(後期)
今井 裕一(いまい・ゆういち)さん

「知の衝動」に駆られて

中谷教授(右)の指導を受ける今井さん

 

 横浜市にある研究開発型ベンチャー企業の代表取締役社長を務める今井さんは、大学院への入学を決めた理由を「知の衝動みたいなものです」と説明します。「ものづくりには知的な第1の創造があって、物的な第2の創造があります。自分もその第1の創造の一端に加わって、知の源泉にたどり着きたいと思って」

 そのきっかけは2015年のOUSフォーラムで見た現在の指導教員、中谷達行教授のダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)に関する研究発表でした。DLCは金属表面のコーティングなどに使われる炭素と水素でできた素材。今井さんの会社も独自にDLCを手掛けていました。
「中谷先生の製膜プロセスの原理があって、それがそのまま形になっていく。これがクリエーティブな世界なんだな、と驚きました」と熱く語ります。


 

社会人特別選抜で見事合格 「すごい!」とFBで世界から称賛

 

 もともと岡山県高梁市出身。琉球大学農学部卒業後、家業の石油製品販売会社を継ぎました。ところが「石油メジャー」を頂点とする業界構造に疑問を抱き、「もっと付加価値の高い事業領域への進出を」と中小企業基盤整備機構(東京)に相談。そこで紹介された東京の半導体装置メーカー役員と意気投合し、2002年に研究開発型のベンチャー企業を横浜市に立ち上げて社長に就任し、主に事業部門を担当しました。

 現在、従業員は研究員ばかり8人。「業績はまだまだ。これからです」。家業との二足のわらじが続きます。そんな中で、「研究開発型の会社の社長が、技術のことがチンプンカンプンでは非常にまずいな、と。やっぱり下地がないものの立場を痛感していました」。
 中谷教授に大学院受験を勧められて一念発起。2018年3月、58歳で社会人特別選抜にトライし、見事合格。フェースブック(FB)で報告すると世界中から「すごい!」と称賛の声が寄せられました。

 
 

「成長の糧になるのを感じる」 学生も「刺激になります」

 博士論文のテーマはもちろんDLC。小径長尺チューブの内壁にDLCコーティングした人工血管の生体応用に挑んでいます。
 「もともとベースがないので、分からないことだらけ。謙虚に自分自身の足元を見つめ直す機会になります。否が応にも自分自身を見つめ直さざるを得ません。痛みは伴いますが、成長の糧になるのを感じます。分からないことが分かってくると、喜びになります。少しずつ、ステップバイステップです」

 1カ月に一度、1週間程度大学に通って来ては、学生たちと一緒に実験に取り組んでいます。同じ研究科の修士課程、福江紘幸さんは「非常に刺激になります。負けられないというのもあるし、社会に出てもずっと勉強し続けなければいけないというお手本です」と努力をたたえ、中谷教授は「お互いが切磋琢磨してくれたらいいのです。今井さんの研究は実用化に向けて、期待できると思います」と太鼓判を押します。
 
 3年後、今井さんの名刺に「代表取締役社長」とともに「博士(工学)」と刷り込まれるのが楽しみです。