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(化学科・研究紹介) 金属有機構造体(MOF)による人工光合成の研究

2025.10.14更新学科レポート
[化学科]

■はじめに
 2025年のノーベル化学賞は、金属有機構造体(MOF:Metal–Organic Framework)の研究で世界をリードしてきた京都大学の北川進特別教授らに授与されました。MOFとは、金属イオンと有機分子が規則的に結合して形成される「分子の骨組み(フレームワーク)」構造をもつ物質で、内部に多数の微細な孔(あな)を備えています。この特徴的な構造により、ガスの吸着・分離、触媒反応、光機能、電気伝導など多様な機能を発現し、エネルギー・環境・医療など幅広い分野での応用が期待されています。
 こうした世界的にも注目度の高いMOFに関する研究は、化学科の満身稔教授の研究室においても精力的に進められています。満身教授の研究グループでは、MOFや金属錯体の化学を基盤に、太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する「人工光合成」の実現を目指した研究を行っています。
 
■光でエネルギーを生み出す分子設計
 植物が光合成によって水と二酸化炭素(CO₂)から有機物を合成するように、人工光合成は太陽光を利用して化学エネルギーを生み出す革新的な技術です。満身教授の研究室では、光を吸収して電子を伝える能力をもつ金属ポルフィリン錯体や、それを組み込んだMOF構造体の設計・合成を行い、次世代のエネルギー変換材料の開発に取り組んでいます。
 これまでに、光を吸収できる亜鉛ポルフィリン錯体が自己集合してできた二次元シートの間にC₆₀(フラーレン)を取り込んだ新しい多孔性金属錯体(図1)を合成しました。この錯体は、光を集めて電子やエネルギーを伝達する光増感剤として機能し、白金コロイドを助触媒に用いることで光による水素生成に成功しています。また、レニウム架橋亜鉛ポルフィリン環状四量体(図2)を光増感剤に用いた場合にも水素生成反応が確認されました。さらに、ジアセチレン鎖で鉄やコバルトの金属ポルフィリンを結合した金属ポルフィリンダイマー錯体(図3)を合成し、ルテニウム錯体を光増感剤として用いることで、光化学的CO₂還元反応による一酸化炭素(CO)の生成にも成功しています。そして、現在は、一方の金属を亜鉛に置き換え、光エネルギーの吸収とCO₂還元を同時に担う多機能性錯体の開発を進めています。
 
■未来のエネルギー社会に向けて
 人工光合成は、太陽光からクリーンな燃料や資源を生み出す「夢の技術」として注目されています。満身教授の研究室では、これからも金属錯体の分子設計を通じて、環境負荷の少ない新しいMOFを用いたエネルギー変換材料の創出を目指しています。詳しい研究内容は研究室のホームページで確認ください。高校生の皆さんも,分子の世界を通じて未来のエネルギー問題の解決に挑戦してみませんか?
 
■教員紹介
満身 稔 教授(岡山理科大学 理学部 化学科)
専門分野:無機化学、錯体化学、光機能材料化学
研究テーマ:金属ポルフィリン錯体および金属有機構造体(MOF)を利用した人工光合成・光触媒反応の開発
研究室ホームページ:錯体化学(満身)研究室


(化学科・研究紹介) 金属有機構造体(MOF)による人工光合成の研究

図1. フラーレン(C₆₀)含有亜鉛ポルフィリン錯体

(化学科・研究紹介) 金属有機構造体(MOF)による人工光合成の研究

図2. レニウム架橋亜鉛ポルフィリン環状四量体

(化学科・研究紹介) 金属有機構造体(MOF)による人工光合成の研究

図3. 金属ポルフィリンダイマー錯体