① やきもの
2000年に水中考古学研究所の調査によって報告された資料に加え、地元のダイバーが採集した資料を貸与頂き分析を行いました。提供頂いた資料は海の中に長くおかれていたため、フジツボ等の海棲生物が付着していた一方、完形品も複数みられ、特に青磁・白磁の器面は経年変化が少なく、保存状況も良好で極めて貴重な資料です。
岡山大学文明動態学研究所の柴田亮助教を中心にこれらのやきものの調査を実施しました。その結果、在地土器(吉備系土師器、讃岐産土師器、和泉型瓦器、防長産土師器、九州北部産土師器、東海系須恵器、産地不明土師器・瓦器等)、中国産貿易陶磁(青磁・白磁)、磁器(伊万里焼)が確認されました。また、これらの遺物の年代は型式学的編年の検討により9世紀末~10世紀初頭、11世紀~12世紀、13世紀、18世紀と確認されました。
② 近世のものと推定される沈没船
2024年5月31日のダイバーによる潜水調査で把握された沈没船は木製の構造が残され、フナクイムシの被害を受けながら、シルト質の堆積物に覆われて現在も海底に残存している事が把握されました(図5)。
船体の近くで海底表面に現れていた木質①~③、不明鉄製品1点を採集しました(図6ab,8)。
直島沖の早崎水中遺跡で古代~近代にわたる遺物と近世の沈没船を確認
――岡山理科大学などの研究グループの調査で判明
香川県・直島沖の「早崎水中遺跡」(香川県直島町)の遺物などを調べていた調査団(代表、富岡直人・岡山理科大学副学長)は1月23日、沈没船の周辺で新たに9世紀末~10世紀初頭の九州北部産土師器や東海系の須恵器などが見つかったと発表しました。調査団は「この時期の沈没船が見つかるのは極めて稀。明治期より古い時期の海上交通、海運の歴史に迫り、海を介した人の動きをみるのに非常に貴重な資料」としています。
この遺跡は1990年代半ば、水中カメラの試し撮りで潜水した山本准教授が水深約20㍍付近で、たまたま多数の陶磁器や沈没船を発見。1998年3月に財団法人トヨタ財団の研究助成を受けた水中考古学研究所が潜水調査を実施して「早崎水中遺跡」と命名していました。富岡教授が2022年、山本准教授からこの遺跡の話を聞いて関係者に呼び掛け、2023~24年に本格的な調査を行った結果が今回発表されました。
遺物が散乱している範囲は縦約50㍍、横25~30㍍でした。
記者発表では
・「13世紀初めの沈没船が中心になるが、ちょうど瀬戸内海の海運が盛んになる時期。この時期の船体が見つかるのは極めて稀で、非常に重要な資料となる」(吉崎理事長)
・「船の発見例は非常に少なく、現在船体が見つかっているのは江戸後期から明治期のものがほとんど。それ以前にどんな船でどんなものを積んで、どんな人が操船して海上交通が存在したのか。この遺跡では今まで分からなかった明治より古い時期の海上交通、海運に迫ることができる。海を介した人々の動きをみるのに非常に貴重な資料と言える。この成果をきっかけに水中遺跡について一般の人に興味をもってもらい、守っていければいい」(南准教授)
・「9世紀から10世紀初頭の九州北部産土師器や東海系の須恵器が新たに見つかったが、当時の多角的な経済関係が補強できたのは貴重」(柴田助教)
・「今後も沈没船や遺物の正確な位置の記録など、調査をすすめていきたい」(富岡教授)
――などの知見が示されました。
調査結果の概要は以下の通りです。
1. 調査地点
2. 従来水中から採集された遺物群の再調査
2000年に水中考古学研究所の調査によって報告された資料に加え、地元のダイバーが採集した資料を貸与頂き分析を行いました。提供頂いた資料は海の中に長くおかれていたため、フジツボ等の海棲生物が付着していた一方、完形品も複数みられ、特に青磁・白磁の器面は経年変化が少なく、保存状況も良好で極めて貴重な資料です。
岡山大学文明動態学研究所の柴田亮助教を中心にこれらのやきものの調査を実施しました。その結果、在地土器(吉備系土師器、讃岐産土師器、和泉型瓦器、防長産土師器、九州北部産土師器、東海系須恵器、産地不明土師器・瓦器等)、中国産貿易陶磁(青磁・白磁)、磁器(伊万里焼)が確認されました。また、これらの遺物の年代は型式学的編年の検討により9世紀末~10世紀初頭、11世紀~12世紀、13世紀、18世紀と確認されました。
② 刀の鞘
さらにこの木質から微量なサンプルを採集し、株式会社加速器分析研究所のAMS放射性炭素年代測定にかけた所、1σ暦年代範囲では8世紀後半が8.3%、9世紀前半~9世紀後半が60%という確率、2σ暦年代範囲では8世紀後半~9世紀後半が95.4%の確率という年代が得られました。これにより本資料はかなり古い木材を利用した刀の鞘であり、古刀に分類される可能性のある資料といえます。
図3. 過去に採集された8世紀後半~9世紀後半の木材(スギ)が利用された刀の鞘
3. 2023年における水中ドローンと2024年におけるスクーバダイビングによる調査
(2023年12月28日、芹澤慶行 氏 撮影)
2024年5月31日のダイバーによる潜水調査で把握された沈没船は木製の構造が残され、フナクイムシの被害を受けながら、シルト質の堆積物に覆われて現在も海底に残存している事が把握されました(図5)。
船体の近くで海底表面に現れていた木質①~③、不明鉄製品1点を採集しました(図6ab,8)。
船体に近い海底表面で採集された木質②には赤色の顔料の塗布がみられました。船体にも同じ赤色顔料が塗布されており、フナクイムシに傷められている様子も船体と似ている事から、この木質は船体から落ちた破片と判断しております。なお、金原裕美子氏に蛍光X線分析を依頼した所、赤色の顔料には銅と鉄が含まれる事、この顔料が塗られた部分にはフナクイムシの食害は少ない様子が把握されました。さらにこの木質を株式会社加速器分析研究所に依頼して放射性炭素年代測定にかけた所、近世に属する17世紀後半と18世紀後半を中心とした時期の木材である事が判明しました。その他の木質の①③は、奈良教育大学の金原正明氏、文化財科学研究所の金原美奈子氏・裕美子氏の御教示によります。
さらに付近にはやきものもみられ、海底表面に土師質小皿があり、これはサンプルとして採集しました(図8ab)。また、器種不明のやきものも海底表面にありました(図9)。この甕は採集しておらず、写真撮影を行ったのみで、今後の再調査に際して採集するか慎重に決定します。
今後、追加調査によって正確な沈船や遺物の位置の記録、帰属年代の調査・分析が必要と考えられます。
(2024年5月31日、山本俊政 准教授 撮影)
※木質の同定と遺物の蛍光X線分析は、奈良教育大学 金原正明氏、文化財科学研究所金原美奈子氏・裕美子氏による。
図9. 潜水調査によって確認されたやきもの (山本准教授 撮影)
4.早崎水中遺跡より採集された遺物の帰属年代に関するまとめ
5. 早崎水中遺跡調査団 組織(1.2次調査)
6. 本遺跡の研究発表について
7. 謝辞