理大の栞理大50周年



その36[人工腎臓]  解説

 

 尿は腎臓でつくられます。重い腎臓病になると尿が出にくくなったり、まったく出なくなったりします。尿が出ないと、体の外に尿として排泄されている成分、すなわち、余分な水分や、尿素、尿酸、クレアチニンなどの尿毒症物質が体内に蓄積します。そのような状態を腎不全と言います。ちなみに、健康な人は毎日1〜1.5リットルの尿を出しています。
 腎不全の患者さんの腎臓の代わりをするのが人工腎臓(図1)です。人工腎臓を使用して血液の中から尿の成分を取り除きます。この治療法を血液透析と言います。人工腎臓のことも血液透析器あるいはダイアライザーと呼ぶこともあります。

図1:人工腎臓(ダイアライザー)
 人工腎臓には中空糸(図2)が約1万本も入っています。人工腎臓の長さが約25cm(有効長)ですので、1本のダイアライザーに入っている中空糸を全部つなぐと、その長さは約2,500mにもなります。中空糸はグラタンなどでおなじみのマカロニを非常に細く、長くしたような形をしています(図3、ジュースやアイスコーヒーを飲むときに使うストローにも似ています)。メーカーや銘柄によって異なりますが、中空糸の直径は260ミクロン(0.26mm)前後ですので、髪の毛(100〜150ミクロン)より少し太い程度の細さです。マカロニの麺の厚みあたる中空糸の壁の厚さは約30ミクロン(中空糸の素材や構造で異なり15〜50ミクロン程度)しかありません。
図2:中空糸(写真は1万本の中空糸の束)
図3:中空糸の電子顕微鏡写真
 人工腎臓では中空糸の中空の部分に血液が流れます。中空糸の壁には小さな穴(細孔)がたくさんあいていて、その細孔を通過して尿の成分、すなわち余分な水分や尿毒症物質(老廃物)が中空糸の外に出て行きます。それによって血液から尿の成分を取り除くことができるのです(図4)。しかし、血液の中には尿の成分以外にも、赤血球や白血球、種々の血漿タンパク質など、大切な成分がたくさん含まれていますね。それらも一緒に出て行っては困ります。そこで、人工腎臓の中空糸では、細孔の大きさを約5ナノメートル(1ナノメートル(nm)は1mmの100万分の1)に精密に制御してあります。まさにナノテクノロジーですね。
図4:中空糸による尿毒性物質の除去
 なお、中空糸の細孔をいろいろな大きさに制御することも可能です。細孔の大きさを約300ナノメートルにすると、赤血球や血小板などの血球成分と、タンパク質などが含まれる血漿成分を分けることができます。このような中空糸が組み込まれているが血漿分離器です。また、細孔の大きさを約10ナノメートル、約20ナノメートル、約30ナノメートルに制御することも可能です。このような中空糸が組み込まれているのが血漿成分分離器です。
 血漿分離器や血漿成分分離器を使用すると、自己免疫疾患の自己抗体や、高脂血症のLDL(悪玉コレステロール)など、病気の原因となっている物質を患者さんの血液の中から選択的に除去することができます。このような治療法は「血液をきれいにして病気をなおす」ことから、血液浄化療法(アフェレシス療法)と呼ばれ、現在、多くの難病の治療で使用されています。
 人工腎臓の開発で生まれた中空糸の技術は発展し続けています。

 「生体の一品」もご覧下さい。

 

提供:工学部生体医工学科 中路 修平 先生

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