理大の栞理大50周年



その35[人工心臓]  解説

 

【身体の中にある水圧】
 水圧という言葉を聞いたことがあると思います。水圧は海に潜った時に身体にかかる圧力のことですが、地球の重力の影響により、水深が深くなるほど水深に比例して水圧は高くなります。水深 h における水圧は
                 p=ρgh
になります。ρ は水の密度(約1,000kg/m3)、g は重力加速度(約9.8m/s2)ですので、例えば 10m の深さの水圧は約100 kPa(キロパスカル)になります。100kPa は1気圧にほぼ等しい圧力です。
 実は水圧は海に潜った時にだけ発生するのではなく、身体の内部の血管内には常に発生しています。心臓は鼓動しているために血圧は変動していますが、その平均値が 100mmHg だとしたら、身長 180cm の人が立った時には足にある動脈での平均血圧は 196mmHg にもなります。血液の密度は水の密度とほとんど同じで、重力加速度も地球上では同じ、心臓から足までの距離はだいたい 130 cmですので、
 p = 100 + 1,000 × 9.8 × 1.3 × 0.0075 ≅ 196 mmHg
となります。0.0075は単位の Pa mmHg に変換するための換算係数です。
 その人が心臓から70cmの高さに手を挙げたら、手にある動脈での平均血圧は逆に低くなり、40 mmHg になります。このように身体の内部にも重力の影響により常に水圧がかかっています。宇宙に行くと顔がむくむのはこの血管内の水圧がかからなくなり、体中の動脈内の平均血圧がほとんど同じになるからです。

体位による動脈内の平均血圧の違い ( mmHg )

【人工心臓】
 さて、人工心臓について簡単に説明しましょう。実は日本は人工心臓開発のメッカです。古くは空気駆動型人工心臓があり、最近では磁気浮上型人工心臓が製品化され、好成績を樹立しています。弱った心臓を助けるために補助的に取り付けて心臓が回復した後に取り外すような治療に用いたり、心臓移植までのつなぎとして用いたりしています。人工心臓の開発で難しいのは血液が付着して血の塊(血栓)を作らないようにすることと、赤血球を破壊しないようにすることです。そして、人工心臓を駆動する時に重要なのは、どれ位の出力で人工心臓を駆動すれば良いのかを決めて、その通りに人工心臓を駆動することです。問題のように人工心臓が発生する圧力により頭部の血圧が決まることから、その重要性はわかると思います。
 人工心臓開発の今後の課題は出力を自動で制御できるようにすることです。例えば、上半身を起こした状態と寝た状態では、頭部の血圧を一定にするためには人工心臓の出力を変えなければなりません。その理由は上記の重力の影響による水圧が血管内に働いていることからよくわかると思います。また、心臓の回復に合わせて徐々に人工心臓の出力を自動で低下させられるようになれば、治療成績は飛躍的に向上することでしょう。

 

提供:工学部生体医工学科 内貴 猛 先生

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