これまで現代社会を支えてきた科学は廃棄物や副生物にはあまり関心を払ってきませんでした。つまり、世の中の役に立つもの、人間社会に必要とされるものを手段はどうあれ作ればよい、という思い上がった観点に立っていました。具体的に説明しましょう。たとえば、「抗がん剤A」という非常に良く効く薬が発見されたとします。これまでの化学はこの化合物をいかに大量に作るか、という点にのみ関心を注いできました。ですから1キログラムの「抗がん剤A」を作るために100キログラムの廃棄物や副生物がでてくることもあったわけです。ここで生じた廃棄物や副生物はどこに行くのでしょうか? 皆さんも知っているように産業廃棄物として処理され、埋め立て地へと向かいます。「抗がん剤A」はもちろん多くの人々の命を救うために必要ですが、地球規模で考えた場合、欲しい薬の100倍ものゴミを出す薬の作り方、これはとても好ましくないですよね。これだけ科学が進歩した今の世の中、もう一度頭をフル回転させ、知恵を絞れば100キログラムの産業廃棄物はもっともっと減らせるはずです。
我々の研究室ではそんな考えのもと、世界に先駆け、「ゴミを出さない化学製品の作り方」、つまり「環境に優しい有機化学」の研究に取り組んでいます。